「あん」(ドリアン助川)

自由を与えられた年齢が遅すぎた

「あん」(ドリアン助川)ポプラ文庫

決して賑わうことのない
どら焼き店「どら春」。
雇われ店長・千太郎は
日がな一日鉄板にむかっている。
ある日、一人の老女・徳江が、
自分を雇ってほしいと
やってくる。
徳江があんを作るようになると、
どら春の売り上げは
伸び始める…。

ところがある日を境に、
客足は遠のきます。
徳江が元ハンセン病患者であるという
心ない噂が広がったからです。

ハンセン病については、
私も関心を持っており、
これまで何度か
調べたことがあります。でも、
本書に登場するようなことまでは
知りませんでした。

徳江は14歳のときに強制隔離されます。
「ここで診察を受けて…
 そのあとで、消毒薬のお風呂に
 入らないといけないのよ。
 それで、これまで着ていたものとか、
 持ち物とか、全部処分されるの。
 私は母が縫ってくれた
 ブラウスだけは勘弁して下さいって、
 看護婦さんに泣きながら頼んだの。」

ブラウスは処分され、そのかわりに
「患者着として、縞模様の袷を
 二枚与えられただけよ。
 代わりはないからって。
 次に新しい袷が支給されるのは
 二年先ですよって。」

徳江の語りの中には、
さらに衝撃的な事実が含まれています。
「草津の診療所にあったのよ。
 独房ね。診療所には
 どこにも監禁室があったんだけど、
 草津の独房に送られたら、
 生きては帰れないって
 言われてたの。
 日が当たらない真っ暗な部屋に
 何ヶ月も閉じ込められる。
 冬には雪に閉ざされて
 凍え死ぬんだって」

「ここはその昔、
 火事になっても
 消防は来てくれない。
 犯罪が起きても
 警察も来てくれない。
 そういう場所だったの。」

徳江はさらにこのように述べています。
「法律が変わって、
 みんな故郷に帰れると思って、
 一瞬でもそう喜べた時があって。
 でも、あれから十数年、
 引き取り手は
 ほとんど現れなかったの。」

法律が改正されても、
問題は何ひとつ
解決していなかったのです。

最後に千太郎に当てた徳江の手紙。
「自由を与えられた年齢が
 遅すぎたのです。
 せめてあと二十年早ければ、
 外の世界でも
 人生を築けたかも知れません。
 だけど、六十、七十になってから、
 はい、歩いてもいいですよと
 言われても」

重いテーマと
メッセージを内包した本書。
この国で何が起きていたか
知らずに過ごしていた、
私を含めた大人がしっかりと
読むべき一冊であると同時に、
中学生、高校生に
ぜひ読んでほしい一冊です。

※映画が素晴らしいから、と
 妻に何度も観るよう
 勧められたのですが、
 まだ観ていません。
 Blu-ray買おうかな。

(2020.4.17)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA